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2023年12月26日
高感度検出・長波長X線に対応したX線回折装置の導入・稼働について
~X線回折のラインナップ増強により脱炭素社会の材料の研究・開発を加速~
【要旨】

 当社(以下、「TRC」)は、高感度検出器と長波長入射線源を備えたX線回折装置を導入しました。高感度検出器により、含有量1%程度といった微量の不純物も検出・定量が可能となりました。また、長波長入射線源を備えることにより、従来装置に比べて約3分の1の小さな残留応力まで見積もることが可能となりました。
 X線回折は、高分子や金属、半導体、医薬品関連などの様々な分野で活用されています。地球温暖化を防ぐために必要な技術や材料の開発にも欠かせません。例えば、脱炭素社会実現のために重要なリチウムイオン電池には結晶性材料が多く使われており、X線回折で結晶構造を詳細に解析し、極微量の不純物を検出することは、電池の性能や寿命の向上に貢献します。また、筐体等に使用される金属やデバイス、パッケージなどの歪みや割れといった不良においては、その原因の1つである残留応力の分析は重要となります。
 TRCは、X線回折分析の専門家として長年培った経験と知識を駆使して、他の構造解析手法とも合わせた総合的な材料解析サービスを提供し、地球にやさしい技術や材料の研究・開発に貢献してまいります。

【背景】 
 X線回折は、X線を物質に照射した際に、物質中の原子や分子によりX線が散乱される現象で、散乱されるX線の方向(回折角)や強さを計測することで、物質内での原子や分子の配列(結晶構造)が分かります。X線回折の測定対象材料は原子や分子が規則的に並んだ物質である結晶性化合物全てであり、高分子や金属、セラミックスなどの素材、半導体や電子部品、電池や触媒などの機能性材料、医薬品関連など広範囲に及びます。リチウムイオン電池など、地球温暖化を防ぐためのエネルギー関連材料の開発では結晶性材料が多く使用されており、X線回折による構造解析が重要です。しかし、従来のX線回折装置では感度が低く、微量の不純物を検出できないことがありました。また、燃費向上のため、マグネシウム合金など金属の軽量化も進められていますが、デバイス、パッケージ等に使用される金属において、製品の歪みや割れなどの不良は残留応力が原因となる場合があり、高精度の残留応力測定が重要となります。そこで、今回、弊社は高感度検出器と長波長入射線源を搭載したX線回折装置を導入しました。これにより、広範囲の材料に対して、高感度・高精度のX線回折測定が可能となりました。

【今回の装置導入の重要性】
 新しいX線回折装置により、結晶性材料の高感度の構造解析や高精度の残留応力測定が可能となりました。以下に、その重要性と具体的な測定例を示します。
 高感度検出器では、微量の不純物を検出可能です。特にX線回折で一般的に使用されているCu(銅)線源では、鉄、コバルト、マンガンなどの遷移金属を含む結晶から発生するX線(蛍光X線)の影響によって、微量成分を検出できないことがあります。新規導入の検出器では、エネルギー分解能が高く、回折されたX線とそれとは異なるエネルギーを有する蛍光X線をより厳密に分離して検出できるため、微量の結晶の存在を確認できます。図1にリチウムイオン電池に使用される正極材料であるLi(Ni,Co,Al)O2のX線回折パターンを示しますが、不純物のLi2(SO4)·H2Oが数%含まれることが分かりました。従来装置では、このような微量の不純物を見逃すことがありましたが、新装置では明確にピークとして検出できます。これは、電池の品質向上、問題発生時の原因究明に役立ちます。
 また、残留応力測定では、結晶のわずかな歪みを回折ピーク位置の違いとして捉えますが、回折ピーク位置の測定精度を上げることが重要です。回折角が大きく高角度であるほど回折ピーク位置の測定精度は上がるため、残留応力測定では、できるだけ高角度の回折ピークを用います。一方で、Cr線源はCu線源に対してX線の波長が長いため、Cu線源を用いるのと比べて、回折ピークが高角度側に検出されることが知られています。特に、鉄やアルミニウム金属などにおいては、Cr線源の方が、より高角度側での測定が可能となり、従来装置に比べて約3分の1の小さな残留応力(10 MPa程度)まで見積もることができます。表1に弊社が有するX線回折装置の線源と適した用途を示します。

【今後の展開】
 新しいX線回折装置は、微量成分や不純物の検出、残留応力測定に優れています。これは、材料の品質や安全性の向上、工程改善、研究・開発の推進等に繋がります。TRCは、幅広い装置群とX線回折分析の優れた専門家によって、分析結果から最適なアドバイスを提供いたします。今後も、構造解析技術を向上させて、お客様ニーズにお応えしていきます。

図1 Li(Ni,Co,Al)O2のX線回折パターンとリートベルト法による解析結果

図1 Li(Ni,Co,Al)O2のX線回折パターンとリートベルト法による解析結果

表1 入射線源の種類と適した用途

【用語説明】
※1)入射線源(線源):
X線は電子を金属ターゲットに衝突させて発生させるが、そのうちX線回折に使用するのは、金属ターゲットに固有の波長をもつX線である。例えば、Cu線源を用いた装置では、Cu金属に電子を衝突させて発生する固有の波長をもつX線(特性X線)を物質に照射する。

※2)残留応力(residual stress):
構造体に対して外力を除荷しても物質内に存在する内部応力。

※3)蛍光X線:
 物質にX線を照射させたとき、その物質が構成している元素により放出される固有の波長(エネルギー)のX線。

※4)リートベルト法(Rietveld method):
粉末X線回折測定によって得られた回折パターンを、原子位置やピーク形状などのパラメーターから計算される回折パターンと、最小二乗法でフィッティングすることにより、結晶構造やピーク形状などに関するパラメーターを決定する。このときに複数の結晶相を同時に計算することで結晶相の定量が可能である。



【本サービスのお問い合わせ先】
 本プレスリリースの内容に関するお問い合わせは、下記にお願いいたします。

   構造化学研究部構造化学第1研究室 担当:中川 武志
   TEL:077-510-9106
   E-mail:takeshi.nakagawa.h8[a]trc.toray
   *: [a]は@に置き換えてください。