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2022年12月6日
リュウグウ試料の分析における岡山大学惑星物質研究所との共同研究について
~最先端分析による「リュウグウ」試料のさらなる詳細解析に向けて~
【要旨】

 株式会社東レリサーチセンター(以下、「TRC」)は、今年度当初より、国立大学法人 岡山大学(以下、「岡山大学」) 惑星物質研究所(PML)との共同研究を行っています。これは、宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)が実施した「はやぶさ2プロジェクト」で、地球近傍の小惑星リュウグウから持ち帰った試料を、TRCが保有する最先端分析技術を駆使して、リュウグウの起源と進化に関連する、より詳細な知見を見出すことが目的で、既に、従来の装置では見えていなかった元素や組成の情報の取得に着手しています。今後、TRCは、岡山大学との共同研究を進めると共に、月面探査や、火星・木星をはじめとする深宇宙に関する研究・技術開発を支援する分析技術の開発にも取り組むことで、宇宙関連の学術的問題解決の一助にもなれることが期待できます。 

【背景】
 本年6月に岡山大学 中村栄三 特任教授が発表された小惑星リュウグウの起源と進化に関する論文1)では、(1)リュウグウの前駆天体は海王星よりも外側の太陽系外縁部において有機物およびケイ酸塩を含む氷に富むダストが集積した氷の天体であることや、(2)生命の起源に結び付くアミノ酸やその他有機物の発見など、過去から現在までの生成プロセスが総合的な解析によって考察され、モデル化されています(図1)。リュウグウには、μmスケール以下の微小な大きさで様々な物質が存在していることが分かっていますが、これらの物質内での各種分布を分析・解析することで、太陽系生成初期から現在までの宇宙の歴史を紐解くことが期待されています。
微小な物質内の分布を分析・解析するためには、高い空間分解能を有した分析装置が必要となります。これまで、TRCは最先端分析装置を早期、継続的に導入しており、今回の分析・解析では、特に従来装置よりも遥かに高い空間分解能を有する最先端分析装置と、これまで培ってきた前処理等のサンプル調整技術を駆使して、共同研究に取り組んでいます。具体的には、国内企業では初導入のNanoSIMS*1や世界3台目の導入となるO-PTIR*2 のように空間分解能をさらに高めた測定により、従来の装置では見えていなかった元素や組成の情報の取得に着手しており、各種分布のデータ分析・解析を進めていく予定です。
 

図1 小惑星リュウグウの起源と進化1)(岡山大学 中村栄三 特任教授 提供)

図1 小惑星リュウグウの起源と進化1)(岡山大学 中村栄三 特任教授 提供)

1) On the origin and evolution of the asteroid Ryugu: A comprehensive geochemical perspective
(DOI:https://doi.org/10.2183/pjab.98.015) ;図1は論文中のFig.25を日本語訳したもの


【今回の取り組みの重要性】
 これまで盛んに研究が行われてきた隕石試料とは異なり、リュウグウの試料はサンプルリターン(小惑星に探査機を着陸させ表面の砂を直接持ち帰る)で得られたものです。隕石試料の場合、大気圏に突入する際に熱により表面が融かされて消失したり、地球への落下後の汚染により本来持っていた情報が変化してしまう懸念があります。
これに対して、今回の試料の場合は宇宙空間で採取した状態をそのまま保持しています。これにより、リュウグウの生成プロセス(起源と進化)を詳細に解明することが可能となり、宇宙の歴史を正確に理解し、宇宙関連の様々な学問分野の発展に寄与できることが期待されます。TRCは多岐にわたる様々な企業のお客様に対し、分析を通して材料開発や課題解決に貢献してきています。大学との共同研究においても、学術的問題解決の一助にとなることを目指しています。



【今後の展望】
 当社では岡山大学の中村特任教授との共同研究を進めると共に、月面探査や、火星・木星をはじめとする深宇宙に関する研究・技術開発を支援する分析技術の開発にも取り組んでまいります。


【本サービスに関するお問い合わせ先】土曜日・日曜日・祝日・当社指定の休業日を除く

  ・株式会社東レリサーチセンター技術開発企画部 TEL:077-510-9118


注釈一覧
用語意味
SIMS*1Secondary Ion Mass Spectrometryの略。固体表面へのイオンビーム(一次イオン)照射時に、スパッタリングにより表面から放出されるイオン(二次イオン)を検出することで、固体試料中に含まれる元素を直接検出する分析手法。その中で、NanoSIMSは、プローブ径約50 nmのイオンビームと、透過率の高い質量分析計との併用により、質量イメージングとしては最高レベルの50 nmの空間分解能で、最大7元素を同時分析することが可能。
O-PTIR *2Optical-photothermal IR spectroscopyの略。試料が赤外レーザーを吸収して生じた熱膨張による形状変化をレーザー顕微鏡で検出し、赤外吸収スペクトルに変換することにより、光学顕微鏡とほぼ同等の空間分解能(約1 μm)での化学構造を特定できることを特長とする赤外分光法。

以 上