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09/14/2021

No.0484 有機EL素子のITO仕事関数評価

X線光電子分光法(XPS)は、測定法の工夫により、仕事関数やイオン化ポテンシャルの評価が可能である。この特徴を用いると有機EL素子の電子状態評価が可能であり、デバイス設計指針の探索や劣化解析に有用である。

XPSによる仕事関数評価の原理

XPSでは、試料にX線を照射し、X線により励起された光電子の運動エネルギー分布を測定することにより、物質中の電子状態密度を直接反映したスペクトルを得る(下図参照)。
X線のエネルギー()、仕事関数(WF)、光電子の運動エネルギー最小の値 EK(0)および運動エネルギー最大の値 EK(VBM) は以下の関係式で記述されるため、測定時の工夫により、仕事関数に相当する物性値を求めることができる。
WF = hν - 〔EK(VBM)-EK(0)〕
    電子状態密度(模式図)      XPSスペクトル(模式図)      

             WF : Work function, IP: Ionization potential, EF: Fermi energy, EVAC: Vacuum energy,
             EVBM : Valence band maximum energy, EK: Kinetic energy

有機EL素子(劣化前後)の仕事関数評価

有機EL素子に劣化をもたらす要因のひとつに陽極/有機層界面の劣化が挙げられる。
当社では、独自の前処理技術により、大気暴露することなく、有機EL素子の陽極/正孔輸送層の界面を露出させることができる。
ここでは、未駆動の素子(劣化前)と輝度が50%低下した素子(劣化後)の陽極/正孔輸送層界面の仕事関数を調べた。
                    不活性雰囲気中(高純度Ar)

 
グローブボックス内サンプリング(高純度Ar雰囲気)およびトランスファーベッセルによる不活性搬送により大気暴露の影響を排除した測定が可能
                  EK(0)(Cut off) region
劣化後は、劣化前に比べて、ITOの仕事関数が増加 ⇒ 素子設計時の”電子と正孔の注入キャリアバランス”が崩れたことが、輝度劣化の原因の一つと推定される。
仕事関数評価は有機ELの劣化解析に有用!

仕事関数の有機膜厚依存性の評価

有機EL素子の特性向上のためには、界面の電子構造を知ることが重要である。
ここでは、ITO膜上の正孔輸送層として用いられる“2-TNATA”の膜厚を変えた時の仕事関数の変化を調べた。
 
 
 
 
・ 有機膜厚が薄い(1-2 nm)領域 では、仕事関数が増加 ⇒ 有機膜との接触によるITOの仕事関数変化を示唆した可能性あり。
・ 有機膜厚が厚い(5-10 nm)領域 では、仕事関数が減少 ⇒ 有機膜の仕事関数を反映した可能性あり。

カテゴリー

IT機器

分類

有機ELディスプレイ, 電子・機能性材料