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12/11/2014

No.0233 生体試料用AFMを用いたリポソームの液中観察

薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)のキャリアとして用いられるリポソームを、実使用環境の液中で形態観察するのは、高度な技術を要求され難易度が高い。原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)を用いて液中でリポソームを観察し、粒子径分布解析を行う技術を確立した。

リポソームの形成

 リポソームとは、両親媒性である脂質が水中で形成する分子集合体で、その構造は脂質二分子膜に囲まれた水相を持つ閉鎖小胞(ベシクル構造)である。リポソーム形成についての概要を、Fig.1に示す。

Fig.1  両親媒性脂質のリポソーム形成、およびリポソームのベシクル構造

Fig.1  両親媒性脂質のリポソーム形成、およびリポソームのベシクル構造

試料、基板の前処理

◆試料
・・・
アニオン性リポソーム ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)
/ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)/コレステロール=66.7/3.3/30
◆前処理
・・・
シリコンウェハを3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で反応させシラン化を行った(Fig.2)。この処理により、静電相互作用でリポソームを基板(シリコンウェハ)に吸着させることができる(Fig.3)。

Fig.2  3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)によるシリコンウェハのシラン化
(水酸基はシリコンウェハ表面の一部)

Fig.3  静電相互作用による水中でのアニオン性リポソームの
シラン化基板への吸着(模式図)

リポソームの液中AFM観察

 シラン化したシリコンウェハにリポソーム懸濁液を滴下し、生体試料用AFMを用いて室温下で観察を行った。その結果をFig.4に示す。Fig.4より、リポソームのベシクル構造が基板に吸着したと考えられる球状構造が数多く存在している様子が観察された。

Fig.4  シラン化基板に吸着させたアニオン性リポソームの立体表示AFM像
(Tris-NaCl/EDTAバッファー中、走査範囲:2×2μm2 )

Fig.4  シラン化基板に吸着させたアニオン性リポソームの立体表示AFM像 (Tris-NaCl/EDTAバッファー中、走査範囲:2×2μm2

リポソームの粒子径分布解析

 得られたAFM像からベシクルと判断できるものを粒子として抽出し、画像解析を行った。粒子の面積から、円と仮定した時の直径(円相当径)を算出し、分散をヒストグラムで表示した。ヒストグラム、平均粒子径および標準偏差をFig.5に示す。  なお、ベシクル構造が基板に吸着した時に拡がる(扁平状となる)ことを考慮すると、本解析で求められた粒子径は、リポソームが液中で浮遊した状態よりも大きく見積もられていると考えられる。

Fig.5  AFM像から算出したリポソームの粒子径分布

Fig.5  AFM像から算出したリポソームの粒子径分布

※本研究は、京都大学大学院工学研究科材料化学専攻木村俊作教授のご協力を得て行ったものです。


カテゴリー

ライフサイエンス

分類

医療機器・医療材料