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09/14/2021

No.0483 硬X線光電子分光法による有機EL素子界面の状態分析

硬X線光電子分光法(HAXPES)は実験室系XPSより検出深さが深いという特徴を有している。 これを利用して、トップエミッション構造有機EL素子としてAlq3膜上に透明導電膜のITOを形成した際のITO/Alq3界面の化学状態に関して、ITO成膜時のAlq3膜の深さ方向の構造変化・元素分布が評価できる。

分析試料: トップエミッション型OLED

◆ トップエミッション型有機EL素子(OLED)    OLED: Organic light emission diode

 

メリット
TFT・配線設計等の制限が少ない  ⇒ 高開口率、高輝度
課題
陰極は透明電極  ⇒ 電極形成時の有機膜劣化
✔ 陰極形成後の有機膜の化学状態の理解と劣化抑制が必要
分析試料模式図
 
 
 
陰極にITOをスパッタ成膜 ⇒ 有機膜へのダメージが懸念
ITO/Alq3界面にLiF極薄膜挿入 ⇒ 電子注入効率向上とITO成膜によるAlq3膜劣化抑制が目的

分析手法: HAXPES & PL

◆ 硬X線光電子分光法: HAXPES 
   Hard x-ray photoelectron spectroscopy
 〇 実験室系XPSより検出深さが深い(数十nm)
 〇 光電子検出角度を変えることで、非破壊で深さ方向分析が可能
  
 ※ Take-off angle (θ)
◆ フォトルミネッセンス測定: PL
   Photo-luminescence
 〇 発光分光分析
 〇 裏面ガラス越し(封止状態)の非破壊分析が可能

HAXPES結果: ITO/Alq3界面へのLiF膜挿入効果の検証

◆ HAXPESによりITO膜越しにAlq3膜の化学状態を分析
  Samples: Alq3ITO/Alq3ITO/LiF(1 nm)/Alq3ITO/LiF(2 nm)/Alq3
  Analysis: HAXPES、hν= 7940 eV (BL46XU)、Take-off angles(TOA): 30、45 and 80°
   
    C1s (TOA= 80º)              C1s satellite region(TOA= 80º)
  
 
    C1s (TOA= 30º)              C1s satellite region(TOA= 30º)
   

 ・ 検出角度80º (検出深さが深い)は、スペクトルに顕著な違い無し
 ・ ITO成膜による検出角度30º(検出深さが浅い)のスペクトル変化
 ・ LiF膜挿入の有無でスペクトルに顕著な違い無し
⇒ Alq3膜内部はダメージ無し
⇒ ITO/Alq3界面近傍のAlq3構造の変化
⇒ LiF膜厚依存性無し
⇒ LiF膜挿入によるAlq3膜のダメージ抑制の効果は小さい
  ピーク強度比の検出角度依存性プロット
    
     N1s/C1s                     Al1s/C1s
 
 ・ ピーク強度比のLiF膜厚依存性は認められない ⇒ LiF膜挿入によるAlq3膜劣化は抑制できない

PL結果: Alq3発光強度のLiF膜厚依存性

◆ PLにより裏面ガラス越しにAlq3膜の発光を評価
  Samples: Alq3ITO/Alq3ITO/LiF(1 nm)/Alq3ITO/LiF(2 nm)/Alq3
  Analysis: PL、Excitation light: 325 nm
  PL:Excitation light: 325 nm
・ ITO成膜により発光強度が減少
・ LiF膜挿入により発光強度がわずかに増加
⇒ Alq3膜の劣化を反映した可能性有り
⇒ ITO成膜によるAlq3膜ダメージ軽減の可能性
  
※ 発光強度の増減は薄膜積層による光学干渉効果も含まれる可能性有り  
Conclusion
ITO成膜により、ITO/Alq3界面近傍でAlq3が構造変化
(今回の実験では) LiF挿入によるITOダメージ軽減効果は低い
HAXPESによりITO成膜後の有機膜の化学状態分析が可能
PL測定により封止状態で有機膜の発光特性が評価可能

カテゴリー

自動車, IT機器, 材料・素材, 半導体・実装, ライフサイエンス

分類

有機ELディスプレイ, 高分子材料, 電子・機能性材料, 複合材料, LSI・IC・メモリ